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経営コンサルタント直伝!PRストーリーの考え方と作り方(後編)

今回は、「経営コンサルタント直伝!PRストーリーの考え方と作り方」(前編)(中編)に続きまして、最後に価値消費モデルを押さえた魅力的なPRとは何かについてお伝えいたします。


価値消費モデルを押さえ魅力的なPRを検討する

これまでのステップで、ターゲットの属性と行動を元に、ブランドとの接触状況に応じた情報入手手段とコンテンツを整理できました。
最後に、ブランドが魅力的に映るPRを検討するための基本的な考え方として、「価値消費モデル」について説明します。
次の図は、その価値消費モデルをまとめたものです。

出所 : タナベコンサルティング作成

高度経済成長期においては日本の円の価値がどんどん上昇し、物価も収入も右肩上がりに上昇していきました。
そんな時代には、高価なものや珍しいものを消費することに価値がありました。それを「モノ消費」といいます。

ところが、バブルが崩壊しモノの価値が低下すると、ブランドを選択することでどのような「体験」を得られるのかという「質」に価値が置かれるようになります。これが「コト消費」です。
ここでいう体験とは、ブランドを選択することによって得られる便益を指します。例えば、ヨーグルトが単においしいだけでなく、菌の効果で健康に良い影響がもたらされることなども「コト」に当たります。

そして、SNSの急拡大に伴って、モノやコトを自分だけで消費するだけではなく、それを共有することに価値が置かれるようになります。
逆に言えば、共有する価値があるものに人々は消費を行うようになりました。これを「ヒト消費」といいます。

ここで、新型コロナウィルス感染症の世界的拡大という人々の価値観を大きく変える出来事が発生しました。
これにより、2つの価値が注目されるようになります。

1つは感情です。体験の機会が絶たれたため、ヒトに共有できるものは感情が主体となります。感情を発信し同じ考えを持つ人々がそれに共感を示してくれることで精神的にコミュニティに所属しているという安心感が得られます。
この考えは、アフターコロナと言われる現在も続いており、リアル・リモートに限らず感情を共有できることに価値が置かれ、それを提供するものに人々は消費を行うようになりました。これを「エモ消費」と言います。

もう1つは社外的意義です。同時に、いつ何時、どのようなネガティブな事態が自身の身に降りかかるか分からないという考えが、将来や未来を考える対象を自分自身や所属する小さなコミュニティから、社会・地球規模にまで広がりを見せます。
自身がブランドを選択することで、社会や地球環境にプラスの意義がもたらされることに価値を感じ消費を行うことを「イミ消費」と言います。

このように、PRストーリーは「エモ」 「イミ」をいかに喚起するのかということを基点に検討すると、顧客にとって魅力的なものに映るようになります。もちろん、「モノ」 「コト」にまったく価値がなくなったという訳ではなく、ターゲットが価値を感じてくれると判断した場合には採用します。

以上、PRストーリーについて説明して参りました。
皆さんの企業の商品や魅力が多くの方々に広まる、その一助になりましたら幸いです。

 

経営コンサルタント直伝!PRストーリーの考え方と作り方(前編)

ブランドとは顧客が持つイメージであるため、PRもブランディングにおいては重要なタスクとなります。
今回は、ブランドを魅力的にPRするための基本的な考え方である「PRストーリー」とその構築方法を3段階でご説明いたします。前編ではまず、「PRストーリー」とは何かをお伝えいたします。


ブランド・ブランディングとPRストーリーの関係

そもそも、ブランドとは「その企業や商品の提供価値や、さまざまな構成要素、コンタクト体験が複合的に結びついて、消費者・顧客の頭の中で作り上げられるイメージ」のことを言います。
また、ブランディングとは「企業や製品・サービスによって提案したいCI(コーポレートアイデンティティ)やブランド独自の価値を魅力的に伝えることで、消費者・顧客にその価値を認知させ、イメージを向上する活動」のことを言います。

ブランドとはあくまで顧客が持つイメージであるため、いかに優れたブランドであっても最終的にそれを発信し、顧客に理解してもらわなければ意味がありません。その点で、多くの顧客にイメージを持ってもらうためのPR活動もブランディングにおいて重要な項目のひとつです。
それでは、自社のブランドを魅力的なものとしてイメージづけるためにはどのようなPRが必要となるのでしょうか。それを検討するための基本的な考え方として、「PRストーリー」をご紹介いたします。

PRストーリーとは

本稿では、PRストーリーを「ブランドの価値に共感を覚える顧客を見定め、最適なメッセージと媒体によって発信するために体系化された導線設計」と定義します。
繰り返しとなりますが、ブランディングにあたって最重要かつ大前提とも言うべき要素のひとつが「顧客視点」です。
「自社のブランド・商品・サービスはこんなに良いものですよ」という一方的なメッセージの発信は、企業側の単なる「都合」に基づくものであり、顧客視点となっていません。
また、ブランドが良いことはどの企業であっても同じであるため、競合との差別化に繋がりません(そもそも、自社の商品・サービスが悪いという企業はありませんよね)。

自社の商品・サービスに価値を感じるターゲットを見定め、そのターゲットがブランドに魅力や共感を感じるメッセージやイメージを構築し、その発信に最適な媒体を選定する。このプロセスを一貫したストーリーのように体系化したものがPRストーリーです。
プロセスそのものはブランディングにも似ていますが、ブランディングでは最終フェーズで検討することとの多いPRを、主要要素として構築段階から組み込んでいる点が異なります。
また、PRのターゲットは、ブランドを選択する消費者だけでなく、一般生活者、株主、取引先、自社社員、あるいは、情報を取り上げるメディア・媒体社に至るまで、自社にまつわる世界・社会に生きる全ての人々が対象となる可能性があります。
この点において、業界・業種に関わらず、PRストーリーはブランディングに関わる全ての人が念頭に置くべき概念のひとつといえます。

中編では、PRストーリーの設計方法についてお伝えいたします!

経営コンサルタント直伝!未来を切り開くブランド戦略のキホン

ブランド戦略とは、ブランディングを行うための戦略のことを言い、ブランディングの対象を大まかに分類すると「インナー」と「アウター」の2方向があります。
インナーブランディングとは社員や役員など自社の従業員に向けて行うブランディングで、アウターブランディングとは、顧客や取引先、投資家などといった「社外」に向けたブランディングです。
ブランディングとは、対象となるステークホルダーに向けて共通したイメージを持ってもらうことを目的に行います。


——なぜブランド戦略が必要なのか

ブランド戦略を立てて、自社や商品のブランディングを行うことには、様々なメリットがあります。
大きく分けると下記3点です。

1.価格を自社でコントロールできる
2.他社との差別化がなされ、競争力が高くなる
3.商品やサービスが勝手に売れるようになる

一つずつをさらに掘り下げていきましょう。

1.価格を自社でコントロールできる
例えば車を想像してみてください。普通車やスポーツカー、高級車など、世の中には様々な車が販売されています。そのどれもが大なり小なりブランディングを行っておりますが、特に高級車ラインと言われる車の中には青天井と言われるほど高く、リセールバリューも非常に高い車が存在します。パーツや性能が他の高級車と大きく違うわけでもないのに、販売価格が高い車の背景には、これまで数十年と弛まず築いてきたブランド力があります。1,000万円で作った車を1億円で販売をしたとしても「欲しい!」と思わせれば、それには9,000万円のブランド付加価値があり、価格の決定権を消費者ではなく企業が持てるようになります。これがブランディングを行うべき1つ目の理由です。

2.他社との差別化がなされ、競争力が高くなる
同じく車の例で考えてみましょう。高級車を販売しているメーカーは数多く存在します。一方で、消費者は様々なメーカーが販売している様々な高級車を比較検討します。群雄割拠している同じ価格帯の商品ラインナップから自社商品を選んでもらうためには、値段以外の価値を感じてもらう必要があります。この「値段以外の価値」こそがブランドであり、この価値を高めることで商品の競争力が高くなります。これがブランディングを行うべき2つ目の理由です。

3.商品やサービスが勝手に売れるようになる
適切なブランディングを行うと、消費者が自社商品の良いところを能動的に見つけてくれます。そして、その良いところが競争力を高める要因となり、何もしなくても商品やサービスが勝手に売れ出す、善循環を作り出すことに繋がります。これはマーケティングに通ずる部分もあります(マーケティング=何もしなくても商品が売れる環境づくり)。
数十年とブランディングを行ってきたメーカーの車は、その社名を聞いただけで「高級だよね」「質感が良いよね」というような感想を抱くはずです。値段が高くとも、高級なブランド力に惹かれて購入する人たちは、このメーカーが培ってきたブランドを買っていることと等しいのです。これがブランディングを行うべき3つ目の理由です。

上記3点のようなメリットを生み出すべく、ブランディングをより効果的に行うための考え方が「ブランド戦略」です。

——ブランド戦略にフレームワークを用いる理由

ブランド戦略にフレームワークを用いる理由は、既出の通り「ブランディングを効果的・効率的に行えるから」です。このフレームワークには実に様々な種類があり、日々新しい考え方が生まれておりますが、ここでは代表的な分析方法を3つお伝えします。

1.PEST分析
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が、現在もしくは将来的にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークのことです。 「政治(Politics)」 「経済(Economy)」 「社会(Society)」 「技術(Technology)」のそれぞれの頭文字を取ってPEST分析と呼ばれます。これら4つの外部環境の要素を取り出し、分析対象とします。

2.STP分析/3C分析/4P分析
STP分析とは、競合他社との位置関係を把握・決定することができるフレームワークです。S=「市場の細分化(Segmentation・セグメンテーション)」、T=「ターゲット層の抽出(Targeting・ターゲティング)」、P=「競合との差別化(Positioning・ポジショニング)」を表した言葉です。各段階において、それぞれの役割があります。まずセグメンテーションで市場の全体像を把握し、ターゲティングでその中から狙うべき市場を決定し、ポジショニングで競合他社との位置関係を決定することができます。
3C分析とは、市場環境を分析するフレームワークのことです。 3C分析は「顧客(Customer)」 「自社(Company)」 「競合他社(Competitor)」の3つを軸にして市場環境を分析するフレームワークです。 おもにマーケティング戦略の策定や、事業計画に用いられます。
そして、4P分析とは、自社商品・サービスにまつわる「商品(Product)」 「価格(Price)」 「流通(Place)」 「販売促進(Promotion)」の、4つの頭文字をとったマーケティング手法です。 この4つの戦略領域を分析することで、具体的なマーケティング戦略を立案できます。
よくある間違いがSTP分析の前に3C分析や4P分析をしてしまう、という例です。4P分析の方が普段の業務との被りもありとっつきやすいので、どうしても先に考えてしまいがちです。しかし、正しいSTP分析を行って自社の現在地を把握した上で3C分析や4P分析を行わないと、その後のブランド戦略が絵に描いた餅になってしまうので注意しましょう。

3.SWOT分析
SWOT分析とは、自社の内部環境と外部環境を、「強み(Strength)」 「弱み(Weakness)」 「機会(Opportunity)」 「脅威(Threat)」として洗い出し、分析する手法で、企業や事業の現状を把握するためのフレームワークです。

このようなフレームワークを場面に応じて活用しながら、ブランド戦略を練ることがより良いブランドを作り出すための最短ルートです。ここで間違ってはいけないのは、このようなフレームワークを用いるやり方は「つまらない失敗を防ぐ」効果がありますが、「必ず成功する」わけではない、ということです。

——まとめ

ブランディングは、企業自体や商品・サービスの認知度を高め、その価値を広く浸透させる活動です。 一方、マーケティングは、市場において商品やサービスが売れる仕組みをつくる活動です。 ブランディングとマーケティングは関連し合いながら、市場における優位性の確保に貢献し、企業経営を安定化させます。この記事では、その中でもブランディングにフォーカスし、初歩的な解説をしました。これからブランディングに挑戦される方々のお力になれれば幸いです。

直売所から学ぶ成功の秘訣!山元町のイチゴブランド化に見る売れる商品づくり

1.はじめに

宮城県山元町にある「やまもと夢いちごの郷」は、地域の特産品であるイチゴを中心に、直売所としての視点からブランド化や商品開発を推進し、地域を盛り上げている施設です。今回は、取締役支配人 馬場健保さんと主任 貴志由寛さんに、消費者に最も近い直売所の視点から、売れる商品や地域特産品のブランディングのポイントについて教えていただきました。

2.直売所の視点から見るブランド化の成功要因

(1)地域と行政の連携によるブランド化

「やまもと夢いちごの郷」は、直売所として山元町のイチゴを地域の復興シンボルとして位置付け、行政と連携しながらブランド化を進めてきました。震災により農作物の生産が滞ってしまっていましたが、このままではいけないと農家の皆さんが立ち上がり、イチゴの生産に力を入れ始めました。そこに行政が注力し、イチゴを中心としたブランディングが行われていきます。「やまもと夢いちごの郷」も最初はイチゴをメインに販売していたにもかかわらず、需要に対してイチゴが足りないという問題が発生していました。この問題を解決すべく行政とも連携し、結果として、直売所にイチゴを出荷してくれる農家さんの数が増加し、地域全体でのイチゴのブランディングと生産が可能になりました。馬場さんは、「イチゴをメインの軸としてぶれないでやってきた」と語り、直売所としての一貫した戦略が成功の鍵であると語ります。

(2)メディアの力を活用したブランディング

メディアの力を活用することは、特産品の認知度を高める上で非常に効果的です。元サラリーマンの方が始めたイチジク栽培がメディアに取り上げられ、偶然「やまもと夢いちごの郷」が紹介されたことでさらに認知度が高まりました。ローカル番組にて紹介された日は問合せの電話が鳴りやまず、次の日には多くのお客様がいらっしゃったそうです。貴志さんは、「ここにも置いていますよ(販売していますよ)というPRをしたから問合せが増えた」と述べ、メディアを通じた情報発信は新たな顧客を引き寄せる大きな力を持っていることが分かります。

3.人気商品の作り方

(1)農家による商品開発と直売所の役割、加工品の展開

商品開発は農家の皆さんが主体となって行い、直売所はその商品を消費者に届ける重要な役割を担っています。これまで農家の皆さんは、地域の特産品であるイチゴを活用し、ジャムやドライイチゴ、アイスクリームなどの加工品を開発してきました。人気がある加工品の共通点は3つ挙げられます。1つ目は保存が効くこと。2つ目は包装が工夫されていること。3つ目は味が想像つかない突飛なもの“でない”ことです。

1つ目・2つ目に関しては、お土産として誰かに配ることを想定して購入される方も多いため、保存が効き、小分けできるようなパッケージが好まれます。また、パッケージのデザインも重要です。貴志さんは、「カラフルで可愛い商品であれば、並べるときに彩があり購買意欲をそそる」と述べ、商品の魅力を引き出す工夫が重要であると強調しています。

3つ目に関して、消費者の動向や声を直接見聞きしている馬場さんは「美味しければいいけど、チャレンジしてみようという商品では続かない」と述べ、消費者の期待に応えることの重要性を指摘しています。

4.消費者ニーズの把握

(1)消費者との直接的なコミュニケーション

直売所では、消費者との直接的なコミュニケーションを通じて、消費者ニーズを把握しています。また、農家の皆さんとも定期的に会議を行っており、直売所が情報共有の場になっています。これにより、消費者の声を迅速に農家に伝えることができ、商品改善や新商品の開発に役立てられています。

また、直売所のスタッフは日々の接客を通じて、消費者の反応や要望を直接聞くことができるため、リアルタイムで生産者へのフィードバックが可能です。さらに、入荷状況や商品の情報を消費者に伝えることもしています。例えば、今年のリンゴは猛暑のため全体的に柔らかいということが分かれば、貼り紙をし、朝礼でスタッフ全員に情報共有を行います。また、消費者からの「もっと小分けにしてほしい」「保存がきく商品が欲しい」といった具体的な要望は、商品ラインナップの見直しや新商品の開発に直結します。馬場さんは、「消費者の声を聞くことが、次の一手を考える上で非常に重要」と述べ、消費者との対話が持続的な商品改善の鍵であると語ります。

5.さいごに

「やまもと夢いちごの郷」の成功は、直売所としての視点から、地域と行政の連携、商品・品質へのこだわり、消費者とのコミュニケーションが鍵となっています。6次産業化に取り組む企業や生産者の皆様には、直売所の視点を活かし、消費者ニーズに応える商品開発を進めていただきたいと思います。地域の力を結集し、新しい価値を創出することで、持続可能な地域経済の発展を目指しましょう。

 

6.生産者の皆さんへ応援メッセージ

馬場さん:「季節やお客様の年代でニーズは変わります。早すぎるのも良くないし、押し売りするのも良くない。お客様のニーズに合ったものを開発することが間違いないです。」

貴志さん:「原材料が高くて大変だと思いますが、安くていいものをお客様は求めていますので、お互いに頑張っていきましょう。」

 

【取材協力】 山元町農水産物直売所 やまもと夢いちごの郷 運営:やまもと地域振興公社
〒989-2111 宮城県亘理郡山元町坂元字荒井183-1
TEL:0223-38-1888 FAX:0223-38-1889 HP:https://yumeichigo.jp/